2018年6月に設立されたJCF女性スポーツ委員会は、心身ともに健やかな女子選手を育成し、女性アスリートの競技環境を整えるために誕生しました。

女性がアスリートとして輝くためには、ジュニア時代から正しい知識と相談できる場を持ち、心身のコンディションを保つことが大切です。
特に、激しいトレーニングを続ける女子選手は、「女性アスリートの三主徴(エネルギーロス、無月経、骨粗しょう)」と呼ばれる症状に悩まされたり、女性特有のトラブルを相談できずに成績を落としたり、競技をあきらめてしまうことも。

人生を豊かにするスポーツで、人生を損なうことがあってはならない。

JCF女性スポーツ委員会はセミナーや講話を通じ、競技を続ける上で必要な知識を伝えます。
誰もが自転車競技の楽しさを感じながら、自身の目標に向かえる環境を整えます。
そして、ガールズキャンプ等の機会を活かして競技者のレベルを底上げし、女性アスリートが長く活躍できる未来をつくります。

2017年から自転車競技連盟の理事を務める三宮恵利子さん。スピードスケートの選手として長野、ソルトレイクシティと二大会のオリンピックに出場。ソルトレイク五輪では日本選手団の旗手を務めるなど、世界のトップアスリートとして活躍した。女性スポーツ委員会でも、その豊かな国際経験を若き選手たちに伝えている。
INTERVIEW-1
ひとつひとつの目標をクリアした先にある「世界への挑戦」

ワールドカップを幾度となく制したアスリートであっても、一足飛びにトップに上り詰めたわけではない。目の前に現れる次のステージを、ひとつひとつ乗り越えてきた。

「スピードスケートを始めた小学3、4年生の頃は『隣の人に勝ちたい』とか、『大会記録を出したい』といった小さな目標でした。強くなりたいと意識し始めたのは中学生。北海道予選で上位18人に残って全国大会に行こう。18人に残れるようになれば、次は全道チャンピオンになろう。いつも『目標達成のために何をしたらいいか』を逆算して実践してきましたね」

強豪選手になれば、同じレベルの選手と練習する機会が増える。自転車競技の合宿と同様に、練習が楽しく刺激になった。しかし、国内のトップアスリートへと成長した三宮さんも、オリンピックで勝つためのステップは別物に感じられた。

「オリンピックに出るという目標と、優勝するという目標では練習内容がまったく違います。オリンピックは100%の力が出せても勝てるかわからない世界。それでもチャンピオンを目指すには、ワールドカップは80%、国内のレースは70%の力で勝てなくてはいけない。自分で自分のギアを上げる感覚を身体に覚え込ませるために、吐くほど練習しました(苦笑)」

INTERVIEW-2
トップアスリートを支え続けた、家族のサポート

強くなりたい選手たちには、学生時代から書き続けた練習日誌の有用性を伝える。その日の練習メニュー、体調や感想、コーチからの指摘なども細かく記し、オリンピック前には毎日「金メダル」と赤字で書いて、勝ち切るイメージを叩き込んだ。

女性は心身の変化も激しいので、日誌を振り返ることで自分を客観的に見つめなおせました。自分のデータを知ることが強くなる道です

自身の努力はもちろん、周囲のサポートも重要だ。トップアスリートしか味わえないよろこびがあれば、苦しみも人一倍。そんなとき、両親のサポートは大きな心の支えになった。

「父は折に触れて励ましの手紙を送ってくれましたし、母は、私が不振に悩む時期に会場に来て応援してくれました。好調なときは誰もが注目して応援してくれる。逆に、調子を落とせば一気に人が離れてしまう。そんなときこそ、そばにいるのは親しかいないという考えだったそうです」

競技をやめたいと思うことも何度もあった。それでも戦えたのは、努力と周囲のサポートを力に、スケートが好きだという素直な気持ち、戦いたい、勝ちたいという意欲を持ち続けられたからだった。

INTERVIEW-3
トップに立つことでしか見えない世界を体感してほしい

日本自転車競技連盟の理事として、女子の競技人口を増やすというミッションを掲げる三宮さん。初心者から自転車競技に親しみ、切磋琢磨できるガールズキャンプのような機会を増やしたいと考えている。さらに、自転車競技とガールズケイリンでのトップアスリートを育成するべく、これからも選手を鼓舞していく。

「スピードスケートでは、決勝に残ると会場中の視線がたった二人の人間に注がれます。その場に立てたということは、お互いに厳しい練習を乗り越えただけでなく、周囲のサポートの元で心身を整えてきた証拠。すると、あんなに勝ちたくて頑張ってきたのに、勝ち負けはどちらでもよくなるというか……本当に不思議な心持ちになるんです。今でも、私はあのフィールドに立ちたい。あの瞬間を味わったからこそ、その後の練習も頑張れた。ガールズケイリンの選手にも、競技を始めたばかりの選手の中にも、トップアスリートにしか見えない世界を感じられる人がきっといます。トップを目指すにはタイミングや運も重要。チャンスがあるなら、ぜひ挑戦してほしいです

現在、JKA自転車競技振興室で活動される沖 美穂さん。ロードレース選手としてオリンピックを3度経験、日本人女子選手として初めて欧州プロチームと契約するなど、2008年の現役引退まで第一線で活躍した。女性スポーツ委員会ではトップアスリート時代の経験、競輪学校の教官としての経験、大学院での学びをフルに活かし女子選手のサポートを続けている。
INTERVIEW-1
スポーツは人生を深め、広い視野が人生をさらに豊かにする

トップアスリートとしての経験から、後輩へもっとも伝えたいことについて伺うと、セカンドキャリアを意識し、自分で世界を広げることだと話す沖さん。

「ヨーロッパでチームメイトから『美穂は、引退したらどうするの?』と尋ねられたとき、今が精一杯の私は何も答えられなかったんです。彼らは競技に力を入れながらも、大学で勉強したり、医者やマッサージ師を目指していた。自分の人生に真剣に向き合うのは当たり前だとハッとしました」

しかし、将来について考えたくても、自分は自転車競技の世界しか知らない。2008年の北京オリンピックを目指すまでの4年間は、沖さんにとって世界を拡げ、人生を見つめなおすチャンスでもあった。帰国したタイミングや、飛行機での移動中さえ機会ととらえ、さまざまな業界の人と積極的に交流を深めた。

「社会には本当に多様な人と幅広い仕事があるんだと実感しました。その上で、私は自転車競技に関わりたいと思えた。競技を通して選手同士がお互いを尊重し合い、通じ合えることの素晴らしさを改めて実感したんです。スポーツは楽しいもの。人生を豊かにしてくれるものだと伝えたいという思いで、セカンドキャリアを決めることができました

INTERVIEW-2
自分も相談しづらかった、女性選手ならではの悩みに向き合いたい

現役引退後は指導者としてイタリアで2年間学び、帰国後は海外とのコネクションを活かして海外遠征など強化スタッフとしてナショナルチームに帯同。2013年には、女性初の日本競輪学校(現 日本競輪選手養成所)教官に就任する。指導を始めてすぐに、沖さんは女子選手特有の悩みに改めて直面することになった。股ズレなどの肌トラブルや、タンポンなど生理用品の選択、ピルの使用に関することなど、男性指導者や医師には相談しづらい悩みを抱える選手は数多く、有望な若手選手も間違った対処で身体を傷めたり、成績を落としたりしていたのだ。

過度な練習やダイエットで無月経や摂食障害を起こしたり、体重の増減に関する強迫観念にとらわれたり鬱状態になったり……。これらのトラブルを放置すると、将来的に体調面で大変な影響を及ぼす可能性があります。人生を豊かにしてくれるはずのスポーツで心身を傷めてほしくない。心からそう思います」

INTERVIEW-3
競技に関わる全員が正しい知識を身につけ、スポーツを楽しんでほしい

女子選手の悩みを目の当たりにした沖さんは、女子選手のスキンケアについて深く研究するため、順天堂大学大学院へ進学した。股ズレの現状や生理用品で感じる不快感について選手から情報を集め、女子選手のコンディショニングにはスポーツ用生理用品の開発が急務であるとの研究成果を発表した。

「股ズレや月経についてはプライベートな話題でもあり、口にするのも難しかったと思います。ご両親やアスリートキャンプで出会った仲間、スポーツドクターの婦人科でも、女性スポーツ委員会でもいいので、気軽に相談できる存在を見つけてほしいです

今後、女子選手が競技を続けていく上での課題について尋ねると、若い女性選手たちが長く活躍できる環境をつくっておきたい。と力強く語る沖さん。

「男性指導者にも、女子選手特有のトラブルや心身の状態について学んでほしいという思いがあります。特別なことではなく、選手たちのコンディショニングに必ず求められる知識です。もうひとつは、女性アスリートの将来の選択肢を増やしたいですね。スポーツの素晴らしさを実感したからこそ、職業としてスポーツに関わり続けるというセレクトもあっていいと思うんです」

日本パラサイクリング連盟でパラサイクリング選手の指導にあたるとともに、国内外を飛び回り、女子のジュニア選手の育成に取り組む沼部早紀子さん。大学生から自転車競技に取り組み、一般企業に就職。その後パラサイクリングのパイロットとして活躍し、2014年のアジア大会で引退するまでにコーチ資格を取得した。現在も数少ない女性コーチとして、初心者からトップ選手までサポートを続けている。
INTERVIEW-1
初心者だった当時の自分が求めていた指導を心がける

選手を指導する際、内容と伝え方を個々人に合わせて少しずつ変えてきた沼部さん。特に若手女子選手の指導で気を付けていることについて伺った。

「全員に目を配り、できるだけ偏りない指導を心がけています。目標に達していない選手に時間をかけたら、優秀な選手にはリーダー的な役割をお願いしたりとチーム内のバランスを意識しています。まずは『自転車が楽しい!』と思ってもらえるように一から丁寧に教えます

各自が設定した目標と、本人の現在地とのギャップを埋めるプロセスを一緒に考えるのが指導者の役割。ギアを1枚アップして筋力を上げるのか、食事を変えるのか。必要なステップを、今日すべきことにまで落とし込んでいく。

INTERVIEW-2
女子アスリートを今すぐサポートしなければ、自転車競技人口は増えない

沼部さんが「女性スポーツ委員会」で活動を始めたのは、現状への危機感からだった。

「ガールズサマーキャンプなど、練習会での女の子の表情は輝いてます。同じ立場で競えることの楽しさに目覚め、あっという間に仲良くなります。その様子をうれしく思うと同時に、女子選手の競技環境がまだまだ整っていないことを感じるんです。女子選手たちの悩みに接する機会も増えましたが、ナショナルチームですらチームスタッフは全員男性。一人で悩みを抱え、競技をやめてしまう選手もいました。女子アスリートが悩みを相談できる存在が必要だし、自ら考えて動くための正しい情報を伝えなければ、競技人口は増えないと思っていました

沼部さんが特に力を入れて指導しているのは女性アスリートとしてのコンディション管理、その中でも特に大事にしているのが食事だ。コンディションは食事次第で良くも悪くも変化する。自身も大学時代に栄養学を学び、三食自炊に変えたことで体調も整って怪我知らず。筋肉も適切につき、成績も上がった。

「10代から20代の若い女子選手は特に、エネルギーロスを起こしやすい。もともと食事量が多くない子がトレーニングを重ねると消費したエネルギー分を補えなくなります。身体はなんとか帳尻を合わせようと、月経を止めたりしてしまうんです

「選手として強くなるためには、(レースの時に)補食にするならあんぱんかメロンパンどちらがいいと思う?」など、ストイックすぎずによりよい選択ができるように指導している沼部さん。選手だけでなく、保護者向けに食事や栄養について学べるセミナーなども検討中だ。

INTERVIEW-3
トップ選手に求められるのは考え続ける力、そして「人間力」

競技者、そして指導者として出会ってきたトップアスリートは、常に考え、思わず応援したくなるキャラクターばかりだという。

トップ選手は常に考え抜き、自分と競技、相手をよく知っています。コーチと同じくらい勉強し、自分の課題から逃げない。基礎を繰り返すメンタルの強さも、考え続けるからこそ生まれます。また、応援される選手は人格者であり、周りから応援をされるだけのストーリーをそれぞれ持っている。『人間力なくして競技力の向上なし』という言葉の正しさを感じます」

この先も、コーチとして応援される選手を育て、若手のロールモデルの一人になりたいと語る沼部さん。

「あるジュニア選手から『コーチになるにはどうしたらいいんですか?』と聞かれたときはうれしかったですね。女子選手が将来の進路として、指導者を想像してくれるようになったんだと思って……。今は、どんな資格を取りに行っても周りは男性ばかり(苦笑)ですが、自転車競技連盟には女性の理事もいます。女性アスリートが活躍し続けられる環境を自転車界にも整えたいですね」

1996年、MTBのアトランタオリンピック代表となり、海外レースを転戦して力を磨いてきた小林可奈子さん。結婚・出産を経て現役選手として復帰し、2017年には18年ぶりに全日本選手権を制覇。MTBトップライダーとしてのキャリアを重ねながら、ナショナルチームを率いるコーチとしてのキャリアを歩み始めている。2006年から、拠点である安曇野市で子どもと大人のための「MTBクラブ安曇野」も主宰。
INTERVIEW-1
「MTBクラブ安曇野」で出会った人々がコーチングの原点

MTBのトップ選手として活躍する小林さん。指導者としての一面を開花させたのは、幼い娘たちとの自転車遊びがきっかけだった。
「だんだん、娘の友達も一緒に遊ぶようになり、みんなで自転車を楽しめる環境をつくりたいとつくったのが『MTBクラブ安曇野』で、2020年に14年目を迎えました。子どもも大人も学び合い、一緒に育つ場であってほしい。子どもたちが味わう達成感を大人も一緒に感じてほしいという思いで、幅広い世代に安曇野の自然を体感してもらっています」

クラブで出会う子どもたちは、それぞれ個性的だった。発達障害を抱える子も在籍し、小林さんの指導方法も年々変化していったそうだ。
「一番変わったのは、その子のリズムや目線に合わせて歩んでいこうと思えたことですね。一般的な学校では『しちゃいけない』が多くて、そのルールからはずれる子は居場所がない。MTBなら、まず一人で居ても自然という居場所があります。自転車に乗りたくなれば乗ればいい。メカニックに興味があるなら、自転車の整備について勉強したらいい。もっとレベルを上げたい子は、みんなと楽しく走った後に、自主練で思い切り走ればいい。子どもたちが、心の底からやりたいことを選べる場でありたいと思っていました」

INTERVIEW-2
選手の能力を引き出すために求められるコーチの人間力

子どもの自主性を重んじた指導は実を結び、小林さんの長女、あか里さんをはじめとした「MTBクラブ安曇野」のメンバーが、全国大会で結果を出すようになった。しかし、2001年以降、女子の自転車選手は減少に転じ、世界とのレベルの差はさらに広がっている。小林さんは焦りを感じ、国際自転車連合コーチの資格を取得。ナショナルチームの指導も担うことになった。2020年からは、コーチングスキルをさらに高めたいという思いからスポーツ庁の「女性エリートコーチ育成プログラム」を受講している。
「コーチというと、自主性は大事にしながらも人を助けてひっぱるというイメージがありましたが、昨年から長女を指導してくれているCharles Evansコーチに出会ったことで、コーチングに対する意識が変わったんです。選手は、選手である前に人間。一人の人間として『どうありたいか』を引き出す人間力が、コーチには求められるんだと気付きました
加えて、女性コーチならではの役割も自覚するようになった。
「あるトップ選手に『心がつらくなった時、どうしてる?』と訊くと、『母のところで泣きます』という答えが返ってきたんです。20歳前後は、まだまだ心身が不安定。女性コーチとして、少しでもお母さん役を担いたいという思いは強まりましたね。女性同士だからこそ、対話のハードルが低くなることもあります。現役選手・コーチとしての経験、そして親子で世界を目指してきた経験をお伝えして、選手も親御さんもサポートしたいです」

INTERVIEW-3
選自分と、周囲を幸せにできるアスリートという生き方

コーチとしての学びを深め、小林さんは自分でビジョンを掲げ、パスウェイ(道筋)を描くことの重要性を選手たちに伝えている。
「自分がどこにたどり着きたいのかをしっかり思い描ければ、歩み方はいろいろでいいと思うんです。そして、人にはそれぞれのタイミングがあります。焦らず、自分のパスウェイを描いてほしい
そして、トップ選手を目指すために必要なのは、自分自身の幸せを追い求め、アスリートであることを楽しむ姿勢。
「トップ選手への道のりは厳しいし、孤独です。でも私自身は、競技に打ち込むことで、これまで出会えなかった人とつながり、ご縁がひろがる面白さを同時に感じてきました。頑張ることで自分を知ってもらい、応援されるようになる幸せ。応援してくれる周囲の方と、成果を分かち合う幸せ。応援する選手の活躍を喜ぶ幸せ。周囲の支えを感じる幸せ。そんな幸せのループのはじまりになれるのが、アスリートなんです」

現在、日本競輪選手会に所属し、ガールズケイリンサポートスタッフを務める高松美代子さん。子育てがひと段落した37歳で趣味として自転車を始めると、その奥深さにのめり込み才能が開花。48歳で競輪学校に入学し、最高齢ガールズケイリン選手として2017年の現役引退まで活躍した。現在もテレビ出演や講演会で自身の経験を語り、チャレンジすることの大切さを伝え続けている。
INTERVIEW-1
5%の可能性があるなら「やってみたい!」と一歩踏み出す

「競輪選手を目指してからの毎日は、人生の中で一番輝いていたとき」と語る高松さん。トライアスロンや長距離レースに打ち込む中で、ガールズケイリン復活の噂を耳にした。
「ガールズケイリンの選手になるには日本競輪学校を卒業する必要がありますが、入学時に年齢制限がないと知ったんです。競輪学校に受かれば、毎日大好きな自転車に乗れる。アスリートとしてもっと強くなりたいという思いが募り、試験を受けると家族に宣言しました。驚かれましたけどね(笑)」
やってみたい! と感じることがあれば、その方向に踏み出してみる。選択肢があるなら、難しい方に。それが高松さんのポリシーだ。
「子育ても落ち着いたし、あと10年ほど働いて旅行三昧という人生も楽しそうだなと思いましたが、このタイミングで新しいことに挑戦できるって、実はすごく貴重な機会なんじゃないかと感じたんです。苦しいこともあったけど、その直感は当たっていました。競輪選手を目指そうと決めてガールズケイリンという舞台で闘えた数年間。さまざまな出会いがあり、こうして今も自転車に関わりながら講演会などでお話する機会にも恵まれています。年齢を理由に諦めて受験しなければ、こんな人生を味わえなかった」

INTERVIEW-2
与えられた時間をどう使うかが、自信につながる

見事、日本競輪学校の第一期生となり、生徒会長も務めた高松さん。娘よりも若い仲間に囲まれる中でモチベーションを維持できた秘訣は、自信を持てることを増やしていくことだったそう。
「私はロードバイク出身なので長距離が得意で、スクワットは一期生の中で一番。誰にも負けないことがあると、自分の居場所ができたようでうれしかったんです。小さなことでも『私もやるじゃん!』と思えることを増やせるように、練習や勉強に取り組みました」
年齢のせいか朝、早く起きてしまって……と高松さんは微笑むが、毎日朝3時から学科の予習復習を始め、5時半から始められる朝練に欠かさず出席することは並大抵ではない。空き時間は、すべて自分を高めることに使う。競輪選手としてデビューしてからも、その姿勢は変わらなかった。
「競輪は、速いから勝てるわけではありません。選手によって戦法も異なりますし、仕掛けどころを探り合う心理戦も激しい。現役当時は、レース後に毎回振り返りをしていました。終わったばかりのレースをビデオで見て、指導員の方にもアドバイスを訊いて……振り返りノートも、12、3冊たまっていましたね。競輪は、年間通してレースがあります。日々自分を見つめなおして好不調の波を乗り越えることが重要だと思います」

INTERVIEW-3
プロの条件「カキクケコ」を備えた選手になってほしい

2017年、ガールズケイリンの現役選手を引退後、高松さんはガールズケイリンサポートスタッフに就任。新人女子選手のカリキュラムづくりや訓練を担当している。
「ガールズケイリンが復活して2020年で8年が経ち、結婚や出産といったライフイベントを経験する選手も増えてきました。女子選手の意見をまとめ、現役を続けたいという希望を持つ選手が長く活躍できる環境を整えたいですね」
最後に、この先、ガールズケイリンのトップ選手を目指す女性へ伝えたいことを伺った。
「勝負の90%くらいは、気持ちで決まると思います。『勝てる』という自信を持てないと勝てない。でも結局その自信は、誰よりも練習した、競技に打ち込んだという実感が支えてくれるんですよね。あと、トップを目指す上で大切なことって何だろうと考えたとき、『カキクケコ』の標語みたいにまとめられるんじゃないかなと思ったんです」
カ 感謝 キ 聴く耳を持つ(素直さ) ク 工夫 ケ 謙虚 コ 向上心
長く活躍しているトップ選手は、この中でも特に、聴く耳を持っている気がします。自分の心の声に、周囲の助言に耳を傾けて、自分を見つめなおす。その繰り返しが、人を成長させると思うんです」

  

Q
月経時のトレーニングの際に注意点はありますか?

月経時も普段の体調と変化がなければ通常通りトレーニングをして問題ありません。
月経痛がある場合は早めの鎮痛剤の服用で治まるものであれば服用をして対処しましょう。トレーニングに支障をきたすような月経痛や眠気・倦怠感などがある場合は無理せず休養することも大切です。また、トレーニング時の生理用品はタンポンの使用をおすすめします。

Q
自転車選手のナプキン、タンポンの正しい使用方法が知りたいです。

月経の際、自転車選手は「タンポン」の使用が多いです。その理由は、「ムレ」「ズレ」が気にならなくなるからです。 「タンポン」に抵抗がある、合わないといった場合は「薄いタイプのナプキン」をお薦めします。国内でもアスリート向けの「生理用品」も発売されています。いずれもこまめに交換し、清潔を保つ事が大切です。タンポンの正しい使い方は製品に付属している説明書をよく読み、リラックスした状態で試すことが重要です。下記のリンクも参照してください。
 ○ タンポン使い方ガイド(イラスト) ユニ・チャーム
 ○ タンポン使い方ガイド(動画) ユニ・チャーム

Q
月経痛に毎回違いがあります。どのように対処すればよいでしょうか?

月経痛には早めの鎮痛剤服用をおすすめしますが、鎮痛剤でも治まらず、痛みがひどいことが続く場合は婦人科の受診をおすすめします。
また、毎日のコンディションを記録することも大切です。月経周期と体調、気候や環境などを合わせて管理していくことで、コントロールしやすくなります。

Q
月経不順になっているかもしれません。相談できるところはありますか?

不規則な月経が続く場合や、3か月以上の無月経の場合は婦人科を受診しましょう。
下記リンク先から近くの婦人科ドクターを探すことも可能です。また、トレーニング日誌などを活用し、トレーニング量や食事量などが適正であったか、把握できる範囲で振り返ってみましょう。
 ○ 女性アスリートのためのe-learning 女性スポーツ研究センターのリンク
 ○ 日本スポーツ協会「女性アスリートのための月経セルフチェックシート
 ○ スポーツ協会の「スポーツドクター・スポーツデンティスト・スポーツ栄養士検索」
 ○ 東京大学医学部附属病院女性診療科「女性アスリート外来」

Q
低用量ピルの服用を考えています。どのように処方してもらえばよいですか?

月経調整やPMS(月経前症候群)、月経困難症などの対処方法として、低用量ピルの服用があります。婦人科にて処方してもらうことが可能です。低用量ピルをよりよく活用するために自身の月経周期や普段のコンディションを把握しておくことが大切ですので、日頃から記録しておきましょう。正しい使用方法などの詳細は婦人科ドクターなど専門家に確認しましょう。

Q
股ズレが痛いです。予防方法はありますか?

股ズレの予防方法としては自転車に乗車する前に自転車専用シャモアクリーム、スポーツ選手向けの股ズレ予防クリーム等を塗布してから乗車すると股ズレを軽減、予防できます。
ただし、股ズレになってから慌てて股ズレ予防クリームを塗布しても、痛みが治まらない場合があります。(下記①②③の例を参照し予防に努めてください)
例:
①自転車に乗る前にシャモアクリームの使用説明書を読みレーサーパンツに塗布する
②ウオッシュレット、ウエットシートなどを活用し清潔を保つ
③摩擦で痛みを伴う場合は練習後、氷嚢(アイスバック)等で圧迫し衣服の上から冷却する
また、痛みが引かない、切り傷、できものができたなどの場合は自己判断せず医療機関での受診が軽減の近道となるでしょう。自転車選手の多くは、皮フ科、婦人科、形成外科等に受診しています。

Q
食事や栄養面で女性アスリートが気をつける点はありますか?

トレーニング量に見合った適正な食事量を確保することと、貧血の予防です。
成長期の10代の選手は無月経につながるエネルギーロスに注意してください。また、女子選手が特に気を付けたいのが鉄分の不足による貧血です。血中の鉄分量が不足すると血液が酸素を運ぶ能力が低下し、その結果持久力の低下につながります。いわゆる“スタミナ不足”状態になり、長く続くとパフォーマンスの低下につながります。また、成長期の選手は骨や筋肉の発達にも多くの鉄分が利用され、鉄不足に陥りやすいので食事で積極的に補いましょう。

Q
女子選手と一緒にトレーニングできる機会はありますか?

女子選手のみを対象としたトレーニングキャンプ、講習会等が開催されています。
下記リンクからご確認ください。
 ○ 自転車トラック種目を志す女子アスリート合宿
 ○ 静岡県自転車競技連盟

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