2016/08/17

リオ五輪<レポート>#14

■リオ五輪トラック競技最終日 男子ケイリン 渡邉一成・脇本雄太は1回戦敗退 優勝はイギリスのケニー 20160816
8月16日トラック競技最終日。この日行われた男子ケイリンに日本から渡邉一成、脇本雄太の2人がメダルの期待を背負って出場した。参加選手は27人。4組に分かれて行われる1回戦は、2着までがそのまま準決勝進出、3着以下は敗者復活戦へ回ることになる。まず2組目に登場したのはオリンピック3大会連続出場の渡邉一成。前回のロンドン大会ではこのケイリンに出場して準決勝で破れ最終11位という結果だった。今回は何としても決勝進出は最低限果たしたいところだ。乗り合わせる6人の顔ぶれを見ると、オーストラリアのグレッツァー、ロシアのドミトリエフ、ニュージーランドのドーキンズあたりが警戒を要する選手と思われた。周回は前からニュージーランドのドーキンズ、オーストラリアのグレッツァー、韓国のカン・ドンジン、ロシアのドミトリエフ、ポーランドのジリンスキー、その後ろの6番目に渡邉、そして最後尾にチェコのケレメンの並びで進む。残り2周半のペーサー離脱のタイミングで4番目のドミトリエフが上昇、これにポーランドのジリンスキーが続くが、ジリンスキーはそのままスピードを上げて先頭を取り切りそこで残り2周。後方からはグレッツァーが発進しこれに渡邉が続く。しかし2番目のドミトリエフがグレッツァーの上昇に合わせて踏み出し、先頭はジリンスキーとドミトリエフが並走状態となった。そして残り1周。逃げ続けるジリンスキー、その外にはドミトリエフ、その大外からはグレッツァー、そしてインにはドーキンスが追い上げて、グレッツァーマークの渡邉の前には4人の大きな壁ができてしまった。勝ったのはジリンスキー。渡邉は前にできた壁を崩せず5着。敗者復活戦回りとなった。
その後第4組に、オリンピック初挑戦の脇本雄太が出走した。今年の世界選手権では決勝に進んで5位。日本の短距離陣の中では今最もメダルに近い選手と言える。乗り合わせるメンバーには、スプリントで大会2連覇を果たしたイギリスのケニー、そしてドイツの強豪レビと優勝候補の顔が並ぶ。脇本のスタート位置は内から6番目。ピストルが鳴るのと同時に踏み出し前を伺うも、結局入る場所がなく6番目の最後尾で周回に入った。周回中の並びは前から、コロンビアのプエルタ、カナダのバレッテ、ドイツのレビ、イギリスのケニー、ベネズエラのカネロン、アメリカのバラノスキ、そして7番目最後尾に脇本。レースは残り2周となるところで後方追走のケニーが早めの仕掛けで抜け出し先行態勢に入った。これには残された全員が反応し一列棒状で逃げるケニーを追走する。隊列最後尾の脇本にとってはタイミングが早すぎるスピード展開。こうなってしまっては仕掛けどころも見つからない。レースは結局ケニーが2周を逃げ切って1着。脇本は6着に届くのがやっとだった。
敗者復活戦に回った2人。ここは4組に分かれ各レース1着のみが準決勝に進むことができる。敗者復活戦とは言えメンバーは世界トップクラスのスプリンターたち、勝つのは簡単なことではない。最初に登場したのは第2組出走の渡邉一成。メンバーはイム・チェビン、カン・ドンジンの韓国勢2人とポーランドのマクセル、そしてベネズエラのカネロン。力的には1着をとれる可能性は十分にあるメンバーだ。周回4番目につけた渡邉は、残り2周手前で前を行くイム・チェビンの発進について上昇。残り1周半では先頭に出たイム・チェビンの絶好の2番目を取り切る。しかしその直後に外から猛然と追い上げてきたマクセルが先頭を奪い取り渡邉は3番手に。残りはあと半周。渡邉は必死の追い上げを図るも、マクセルのスピードが思いのほか速く、また後ろからはもう1人の韓国人選手カン・ドンジンが内を突いて上がってきたため、コースを大きく外さざるを得なくなった。結局渡邉はフィニッシュを待たずに力を緩め前を行く3人の背中を呆然と見送った。
続く3組目には脇本雄太が出場。もう後がない戦い。勝たなければいけない戦いに、スタートラインに着いた脇本に気合いが入る。乗り合わせる4人は2014・15年の世界チャンピオン、フランスの・ペルビス、ニュージーランドの強豪・ドーキンス、ベネズエラのプルガル、そしてオーストラリアのコンスタブル。簡単に勝てる相手ではない。脇本のスタート位置は内から4番目。ピストルの合図と共に1回戦同様再び先頭位置を狙うが、今回も取ることができず周回は4番目の位置で進む。残り2周半のペーサー離脱のタイミングで前を取ったのはドーキンス。脇本は最後尾に下がって踏み出しのチャンスをうかがう。そして残り1周手前の3コーナーで脇本が発進。スピードに乗って最終バックで先頭のドーキンスを捕らえようとしたところで2番目にいたペルビスが動いた。ペルビスは捲りきる直前の脇本を外に追いやりながら前のドーキンスを抜いて1着フィニッシュ。脇本はわずかに届かず2着。準決勝進出はならずメダル獲得の夢もここで潰えた。

渡邉一成
あっという間でした。1回戦はオーストラリアの選手が前に出切ると思って付いて行ったのですが、先行したポーランドの選手が強くて思うように行きませんでした。最後の敗者復活戦は良い位置に入る事ができたんですけど、後ろから来たこれもポーランドの選手に行かれてしまい対応することができませんでした。今回ポーランドの選手が予想外に仕上がっていたのが誤算でした。今日は気持ちも体も良い状態で臨めました。監督始めチームスタッフが僕のために気を遣ってくれて良い状態で送り出してくれたのですが、それに応える事ができませんでした。僕の力不足がすべてです。特に脚力のなさを痛感しました。もっともっとパワーを付けて大きなギアを踏めるようにならないとダメですね。高いトップスピードを長い時間維持できる選手が勝っているので、そういった部分では僕を含め日本の選手は遅れを取っていると思います。これまで僕を支えてくれた妻には本当に感謝しています。この5月に子供が生まれたのですが、妻はいろんなものを犠牲にして身重の身で僕をずっとサポートしてくれたのでいくら感謝してもしきれないと思っています。今日はその思いも込めて走ったのですが、力及ばずでした。走り終わった今の気持ちは、9割9分は悔しくてしょうが無い思いですが、残りの1分はどこかほっとしている自分がいます。

脇本雄太
今日は体調は問題ありませんでした。でもやっぱりリオ入りしてからが長かったですね。1回戦は緊張があってまともなレースができませんでした。敗者復活戦の時は緊張もとれ行けると思って走ったのですがダメでした。勝ちに持って行くチャンスは何度かあったと思いますが、タイミングを外してしまいました。オリンピックのレースはW杯や世界選手権に比べて段違いのスピードでした。仕掛けのタイミングも早いので戸惑いました。それとやっぱりみんなここに向けてかなり仕上げてきていることに自分たちとの大きな差を感じました。この結果は応援してくれた方には申し訳ないと思います。でも初めてのオリンピックは得るものが多かったので、その部分には満足しています。僕の目標は4年後の東京オリンピックに今高校で競技をやっている弟と一緒に出る事なので、今回得たものをこれからの4年間に活かしてがんばっていきたいと思います。

男子ケイリン決勝は、過度の主導権争いのため、ペーサー追い抜きの反則判定でレースが2度中断するという前代未聞の緊迫した状況の中で行われた。メンバーはコロンビアのプエルタ、今大会チームスプリントとスプリントで金メダルを手にしているイギリスのケニー、今年の世界チャンピオン・ドイツのアイラース、マレーシアのアワン、オランダのブクリ、そして今大会好調、ポーランドのジリンスキーの6選手。レースは、やはり2回に亘って中断のピストルが鳴らされたペーサー離脱の瞬間に一気にヒートアップした。最初に前に出たのはドイツのアイラース。しかし残り2周となるところで後方から猛然と追い上げてきたポーランドのジリンスキーが先頭に出る。後ろにはアイラース、ケニー、アワンと続く。そして残り1周。アイラースが2番目からスパート。最終バックでアイラースが前を行くジリンスキーを捕らえると、今度は追走のケニーがスパート。今大会破格の強さを見せてきたケニーは、逃げ粘るアイラース、そして内から割り込んできたオランダのブクリを押さえ込んで先頭でフィニッシュ。チームスプリント、スプリントに続いて今大会3冠を達成した。
<男子ケイリン最終成績>
優勝 ケニー    イギリス
2位 ブクリ    オランダ
3位 アワン    マレーシア

女子オムニアムはこの日2日目の3種目が行われた。暫定総合成績18位で初日の3種目を終えた塚越さくらは、2日目最初の種目500mタイムトライアルでは35秒625のタイムで6位。自身が得意とする種目で初の一桁台の順位を取り総合成績を一つあげた。しかし、続くフライングラップは14秒638で15位。そして最後のポイントレースでは必死にメイン集団に食らいつき得点チャンスを待ち続けたものの、なかなかその時は訪れず、結局スタート時のままの68ポイントでフィニッシュした。塚越は初のオリンピックを総合16位の成績で終えた。

塚越さくら
この2日間がいつもより長く感じました。W杯などではレースが楽しいと思えていたのですが、今回は楽しいと思うことができませんでした。それは私の心の準備が足りなかった、オリンピックに臨む気持ちが足りてなかったという事だと思います。リオに来てずっと体が重く感じていて、このトラックにも最後まで慣れることができなかったので不安を抱えたまま本番を迎えることになってしまいました。500mタイムトライアルは自分の得意種目なので不安なく臨めたのですが、その他は、やはりオリンピックという雰囲気に飲まれてしまっていつも通りの走りができませんでした。今回大きな経験をさせてもらったので、ここで得たものを4年後を目指す仲間たちにも伝えて一緒に頑張っていきたいです。

女子オムニアムで金メダルに輝いたのは、イギリスのディフェンディングチャンピオン、トロットだった。トロットは5種目目のフライングラップまでを1位3回・2位2回でまとめ、余裕のあるポイント差を持って最後のポイントレースに臨んだ。そのトロットを追うのはアメリカのハマーとベルギーのドゥーラだったが、大きくポイントを伸ばすための集団からの抜け出しは完全に封じられ、スプリント周回でも徹底したマークにあってトロットとのポイント差を詰めることはできなかった。トロットはこの種目オリンピック2連覇。今大会は団体追い抜きに続いて2つ目の金メダルとなった。ちなみにトロットは昨年今大会3冠のケニーと結婚しており、夫婦でトラック競技全10種目中半分の5つの金メダルを手にしたことになる。
<女子オムニアム最終成績>
優勝 トロット    イギリス  230 Pts.
2位 ハマー     アメリカ 206 Pts.
3位 ドゥーラ    ベルギー 199 Pts.
16位 塚越さくら   日 本   68 Pts.

そしてもう1種目。3日間に亘って行われた女子スプリントは、イギリスのジェームズと、昨年の世界チャンピオン、ドイツのフォーゲルとの間で決勝戦が行われた。予選から持ち前のスピードを武器に破竹の勢いで勝ち上がってきたジェームズだったが、同等のスピードとレーステクニックに勝るフォーゲルがここは大きく立ちはだかった。1回目はフォーゲルが逃げるジェームズをフィニッシュ直前で捕らえ先勝。そして2回目はフォーゲルが逃げ切りで制して、今大会ドイツに初の金メダルをもたらした。(伴 達朗)

<女子スプリント最終成績>
優勝 フォーゲル   ドイツ
2位 ジェームズ   イギリス
3位 マーチャント  イギリス