2022/05/24

2022年アジア選手権レポート

ロードアジア選手権大会(タジキスタン)派遣メンバー:
<選手>
草場 啓吾 (京都 AISAN RACING TEAM)
増田 成幸 (栃木 UTSUNOMIYA BLITZEN)
山本 大喜 (三重 KINAN CYCLING TEAM)

<スタッフ>
柿木 孝之 (JCF強化コーチ)
穴田 悠吾 (JCF強化支援スタッフ)
中村 仁  (JCF強化支援スタッフ)

3月27日(日)個人タイムトライアル

男子エリート個人タイムトライアル(TT)には日本からは2021年TT全日本チャンピオンの増田成幸(UTSUNOMIYA BLITZEN)が参加した。24kmのドゥシャンベの街中を走るコース前半10km区間は2~3パセントの登り基調で、一度下ってからは平坦基調となる。ラスト5kmから700m弱の6~8%の登り区間をこなし、ラスト4kmは緩く下ってゴールを迎える。コーナーはUターンも含めて4か所のみであり、テクニカルなコースではなく選手の力とペース配分がより求められた。
ラジオツールは与えられず、他の選手のタイム情報は何もない中で増田は1分間隔の6番手でスタートする。ライバルとなる選手らとのタイム比較が出来ない中で自分の走りにのみ集中する。スタート時には昨晩からの雨はやんでいたものの路面が乾いていない箇所もありUターン区間やスピードの出る下りコーナーは攻めすぎずスムーズにこなす。最初の9kmほどの緩い登り区間で前半スタートした選手らを次々にパスしながら、自分のペースを崩さず、ラスト5㎞弱の登り区間後半はタイムを稼ぐポイントでもありしっかり力を出してスピードを維持する。ラスト4kmの緩い下り基調の直線コースも重いギアでフォームを乱さず踏み続け、力を出し切りフィニッシュ。
優勝はワールドツアーチームのアスタナで走るFEDOROV Yevgeniy。増田は優勝者から51秒遅れの2位。2018年アジア大会TT2位のウズベキスタンKHALMURATOV Muradjanが3位となった。
増田はアジア選手権決定からの短期間で急遽コンディションを上げる必要があったが、この日は非常に良い走りを見せた。増田はこの日の走りでロードでも良い状態で走れることも確認でき、UCIポイントを55点獲得した。

3月29日(火)個人ロードレース

 ロードレースには日本からは増田成幸(UTSUNOMIYA BLITZEN)、山本大喜(KINAN CYCLING TEAM)、草場啓吾(AISAN RACING TEAM)の3名がエントリーしていたが体調不良の山本大喜はレース前日の段階で出走を取りやめ、日本チームは2名での戦いとなった。今大会の有力国はカザフスタン、モンゴル、UAE、イラン、ウズベキスタンで、2名出走となった日本チームは例年よりマークされる状況ではなくなった。自分たちから積極的にレースを組み立てることなく他のチームの動きに応じていく走りの中でチャンスを見つけ結果を残すことが求められた。

 コース概要は前半40㎞が平坦、そこから15kmの登り、20km下り、平坦20kmの先をUターンして平坦20km、登り20km、下り15kmをこなしてドゥシャンベの街の平坦25kmでゴールに向かう175km。登りは長いものの2~4%の区間が多く、勾配がきついところでも8%ほどで長くはない。勝負所は2つ目の登り区間であり、そこで選りすぐられたメンバーでの少人数でのスプリント勝負が予想され、参加チームとメンバーを考えても集団スプリントとなることは想定しづらい。クライマーというよりはパンチャーにチャンスがあるコース設定であり、どのような展開でもカザフスタンがチームでまとまって攻撃をかけてくる可能性は高く、もし激しい横風が吹く場合にはカザフスタン4名に先行されることがあることも想定しなければならない。

 レース前のミーティングでは例えば先行グループで4名に絞られた場合など1位から4位を狙える展開になったらリスクをとっても1位を狙ってほしいが、まだ先が見えない展開の中でのイチかバチかの動きはしないように選手にはお願いした。また小集団の中に日本選手2名残っていてもスプリント力のある草場のために増田は完全なアシストをせず、2名合算で多くのポイントを獲得できる走りを求めた。後半の登り区間では増田選手は動けるようだったら草場選手がいても他国選手の動きと展開をみて動いたほうがチームとしてはチャンスが大きくなることも確認した。

 レース当日は雨予報で風も吹くということであり、スタート時のその後の予報でも雨ではあったが運良くレース中に降られることはなかった。レースはスタートして10kmもいかないうちにほぼすべての有力チームを含む先行グループが形成され、日本チームからは増田が入る。カザフスタン3人が残ったメイン集団はうまくコントロールされず、まずモンゴルがチーム員同士2名で追走をかける。さらにメイン集団では激しい掛け合いとストップがかかり続け、カザフスタンは脚を使う展開となり、彼らの動きに一人で対応する草場もここで大きく脚を使う。30km過ぎで一気に3分以上の差となる。先行グループでもスムーズにローテ―ションが回っているわけではなかったが、メイン集団よりはまだましのため増田はストレスをためないようにしながらそのまま先頭集団で進む。先頭集団に一人しか入れなかったカザフスタンが露骨に先頭集団のスピードを落とそうとしてくる。
協調体制のとれない先頭グループも35kmあたりからスピードが落ち掛け合いとなり、力ではなくタイミングでイラン、モンゴル、ウズベキスタンの3名の先頭集団が形成され、増田はカザフスタンのCHZHAN Igorらとともに6名の第2集団となる。増田選手のグループはペースが一気に落ちたため後続集団と3分差以上あったが、登りに入ってからまずはモンゴル2名が合流、次に2名のカザフスタンの選手の入ったエース級選手を含む小集団、さらにまた数名が合流し、1回目の登り区間でメイン集団は大きくなる。頂上をクリアしたのち下り区間で合流した選手も加わり20名ほどの集団となり、先頭3名が2分30秒ほどのタイム差をつけてメイン集団のレースは振り出しとなる。草場はここに残れず、増田のみが残る。

 そこからの下り、平坦区間はあまりペースが上がらなかったが途中からUAEが緩くコントロールを開始し始め、集団は一定ペースで進む。増田は集団後方で脚を休め、次の展開に備える。Uターンしてから増田は集団内で前に位置し、次の動きに備え始める。2回目の登り頂上まで15㎞ほどのあたりでカザフスタンが4名全員で前に上がり、一気にレースが動き始める。それまでのレースとは一転して集団のペースが上がり集団内の選手が次々にこぼれていく。一気に10名以下になり、それでも先頭でペースを上げ続け、情報の入ってこなかった先頭集団3名とのタイム差が1分半を切る。更なるペースアップで集団が崩壊し、力のある選手だけの4名の第2追走集団を形成する。そこに増田が入り、カザフスタンはZEITS Andrey、CHZHAN Igorの2名、そして注意していたモンゴルのSAINBAYAR Jambaljamtsが入り、意思が一致し先頭の3名との差を一気に縮めて1分を切ってくる。取り残され再形成された後続第3集団には有力スプリンターのGIDICH Yevgeniy、UAEのMIRZA Yousif、イランのGANJKHANLOU Mohammadと3名も含まれていたため、増田もここは今日の重要な勝負所と判断して躊躇なく脚を使い後続とのタイム差を広げていく。モンゴルのSAINBAYAR Jambaljamtsも先頭にチームメイトがいたが、ローテーションに入らないことで後ろに追いつかれてしまうと最終局面を考えると得策ではないと判断して回り始めたためこれで増田にとって逃げ切りの可能性が高まり良い展開となる。

 先頭ではウズベキスタンがこぼれ2名となり、そこに増田の集団が合流し6名の先頭集団となる。カザフスタン2名、モンゴル2名、イラン1名、日本1名とモンゴルとカザフスタンが2名そろえているが、モンゴルのエースは明らかであり、彼らの動きを見誤ることはない。カザフスタンの二人は強力であるが、スプリント力に長けた選手ではない。ゴールまで30㎞をきり、平坦区間のみでの勝負となった中で後続のスプリンター集団もあきらめず1分ほどの差をキープし続けている。ラスト20kmのドゥシャンベの街中に入って道が広くなりようやく追撃をあきらめたか第2集団はチームカーから振り返っても見えなくなる。先頭では逃げ続けていたイランのCHAICHI RAGHIMI Mohamadesmailがアタックを繰り返すが、他の5名もまだ余裕を持って対応する。ラスト10kmを切って広い直線でカザフのZEITSが攻撃し、皆が反応すると今度は増田がカウンターで動きカザフスタンのCHZHAN 、モンゴルのSAINBAYARとレース前から今回要注意していた3名が抜け出す。ZEITSが更なる合流を試みるも抜け出せず、3名のみが先行し、増田にとっては思い切り勝負できる展開になる。ラスト1500mの勾配の緩い登り区間でCHZHANがかけるが、増田もSAINBAYARも余裕を持って対応する。CHIZHANは2名に対して脚が攣ったポーズを見せ、苦しそうな表情を見せる。この3名ではSAINBAYARが一番スプリント力はあると予想していたが、脚を使う展開だったため誰にでもチャンスがある。最後の1000mはゴールまで見渡せる道幅の広い緩い下り基調の直線でラスト400mを切ってから一気に増田がロングスプリントを開始する。粘り続けたが最後にCHIZHANにまくられ惜しくも2位となった。3位はタイム差なしでSAINBAYARが入った。

 増田は前半から後手を踏むことはなく、常に有力チームの動きをみながらレースを進め、有利な展開の中でも焦らず冷静に動き、レースが振出しに戻っても人数を揃える他チームに任せるところではしっかり力を温存した。一方で勝負がかかる時にはしっかり1人で位置取りして、自らも率先して脚を使い優勝を狙うエース達の集団に残った。そこからは自分からも動き3位以内を確定させると、優勝を目指して可能な限りの動きをして2位となりこの日UCIポイント200点を獲得した。優勝は逃したものの難しい状況の中で考えられる最高の走りをしてくれた。
 草場も体調も万全ではない中で前半からアタック合戦に対応して出来る限りの動きをし、この動きでカザフスタンの力を使わせることに貢献した。レース前日深夜のホテルの部屋移動のトラブルにも文句も言わず対応してくれた。
レースには参加できなかった山本は、ラジオツールがほぼ機能せず逃げメンバーの情報も目視以外なかなか入らないチームカーに、テレビ映像から必要な情報も伝えてくれてチームに貢献してくれた。
急遽遠征が決まり、準備期間が短い中で各選手がレース外でもコミュニケーションをしっかりとり非常にまとまりのある良いチームとなって今回のアジア選手権に臨んでくれたことに感謝したい。

レース結果
1.CHZHAN Igor(カザフスタン)  4時間24分40秒
2.増田成幸(日本 UTSUNOMIYA BLITZEN)同タイム
3. SAINBAYAR Jambaljamts(モンゴル)     同タイム
24. 草場啓吾(日本 AISAN RACING TEAM)19分11秒差