2016/08/22

リオ五輪<レポート>#19

■リオ五輪マウンテンバイク最終日 男子クロスカントリー 山本幸平は21位 金メダルはスイスのシュルテル 20160821
8月21日、リオ五輪最終日。自転車競技もこの日のマウンテンバイク男子クロスカントリーが最終種目となった。天候は前日までの予報より早く崩れ朝から雨模様。ただでさえテクニカルなセクションが多い今回のコースは、この雨でより一層難易度が上がることは間違いない。参加選手は32の国と地域から49人。この雨でもコースや周回数に変更はなく、予定通り570mのスタートループ1周に、起伏に富んだ丘陵地に張り巡らされた1周4.85kmのサーキットを7周回、総距離34.52kmの戦いとなった。日本からはこれで3大会連続のオリンピック挑戦となる山本幸平(31)がただひとり出場を果たしている。山本は当然この雨も想定内としており、事前に話を聞いた際、「雨になれば僕のこれまでの経験が物を言うはず」と語っていた。スタート時の並びは、8月9日時点のUCI(国際自転車競技連合)ランキング上位選手から8人ずつ、スタートダッシュに有利な前列から順に配される。この時点でランキング32位の山本は3列目スタート。「スタートで良い位置が取れて自分の走りができれば、結果はついてくると思います。」とも語った山本。上位進出のための最初にして最大のポイントがスタートだ。

朝からの雨はスタートの1時間ほど前に止んだものの走路は濡れたまま。リスクはそれほど減っていない。重く垂れ込めた雲を見る限りまた降り出すこともあり得る。スタートのネームコールは2列目の選手から。山本も名前をコールされた後3列目の進行方向右手側に位置を取った。最後に最前列に並ぶUCIランキング上位者の名前がコールされそれぞれの位置に着くともうスタートまで30秒。そして午後12時30分ちょうど、乾いたピストルの音と共に、49人が一斉にスタートを切った。猛然と第1コーナーめがけてスピードを上げる選手たち。その中で山本は、うまく前をふさぐ選手たちの間隙を縫ってどんどんポジションを上げていく。そして第1コーナーに入る手前ではランキング上位者がひしめく集団前段に食らいついた。山本は1周570メートルのスタートループを5番目で通過するとそのままの位置でサーキット最初の丘の上りに入った。「スタートが最初のカギ」と語っていた山本にとって最高の滑り出しだ。しかしここから本当の戦い。シングルトラックのため1列棒状でしか進めない最初の上りでも、スタートで後手を踏んだ実力者たちはコーナーや部分的に左右に分かれるトラックがあれば力任せに抜きにくる。山本は最初の丘を上り切ったところでポジションを10番目ほどに落としてしまった。それ以降山本は、「スタートしてしまえば全力を出し切るだけです。」という言葉通り、世界の強豪を相手に、この様々なスキルを要する難コースで必死の戦いを続けるが、パワーの差はいかんともしがたく、トップとのタイム差はどんどん広げられていく。順位も、2周目までは15位とトップ10が見える位置でレース続けたが、中盤パンクアクシデントによる後れも加わって、3周目終わりで18位、4周目終わりで20位、5周目終わりで24位と徐々に落としていった。結局山本は最終周回でやや挽回したもののトップから7分6秒後れの21位でフィニッシュ。3回目のオリンピック挑戦も世界との力の差を痛感する結果に終わった。

山本幸平
スタートはものすごくうまくいって5番目がとれたので、これはイメージ通りで良いなと思いました。でもやはりサーキットに入って1周目の後半から、もう完全にパワー負けをして順位を落としてしましました。でもその後もまだトップ10が見える15位前後ぐらいをがんばって走っていたのですが、中盤にパンクがあって後れてしまい、そこから持ち直すことはできませんでした。自分としては今回、常に全力で行く、全力を出し切る、ということを目指して走っていたので、順位を落としたときも自分で自分を奮い立たせて最後までがんばりました。終わってみて今回の4年間はいろいろなことがあって、苦しい時もあったのですが、諦めずがんばってきて良かったと思います。今この舞台に立てるのは僕しかいないし、この舞台を3度経験したのも僕しかいないし、アジア人でもやれるんだということをみんな見せたい、という気持ちは強いですね。今回は21位でしたけどスタートをイメージ通りに決められたのは満足です。トップ10入りは難しいですけどいつかはできるんじゃないかと思っています。次の東京はもちろん目指すつもりです。これが東京じゃなければ分かりませんが、自国開催なのでやはり出たいです。ただ僕1人というのではなく、2枠3枠取れるように選手やスタッフ含め自転車界全体で考えて前に進んでいかなければならないと思います。自分に必要なことは、常に厳しい環境に身を置くことだと思います。競技の本場はやはりヨーロッパなので、これまで同様レベルの高いヨーロッパの競技環境の中で自分を高めていきたいと思います。

リオ五輪マウンテンバイク・男子クロスカントリー。金メダル争いは、今年の世界選手権でも優勝を争った実力者2人の一騎打ちとなった。レースは、序盤はスタート周回で抜け出したUCIランキング上位者を中心とする14・5人の選手たちが集散を繰り返しながらリードする形で進んだ。その中には昨年のロードレース世界チャンピオン、スロバキアのサガンの姿もあった。しかしサガンは2周目にパンクでトップグループから脱落し、その後も機材トラブルが相次ぎ再び浮上することはなかった。レースは3周目に入って、最初の上りでスイスのシュルテル、チェコのクルハビー、そしてスペインのコロマニコラスの3人が抜け出し新たなトップグループを作る。しかし同じ3周目後半の山場で3人の内コロマニコラスが脱落、トップはシュルテルとクルハビーの2人となった。この後2人は協働して後続を引き離しにかかり、5周目半ばで追走するグループとのタイム差は35秒。金メダル争いはこの2人の一騎打ちの様相となった。スイスのシュルテルは今年の世界チャンピオンであり先のロンドン五輪の銀メダリスト。一方のクルハビーは、今年の世界選手権はシュルテルに次いで2位。しかしロンドン五輪ではシュルテルを押さえて金メダルを手にしている。まさに世界トップの座を争う2人の戦いが、ここリオでも繰り返された。勝負が決まったのは残り2周を切ったばかりの6周目最初の上り。シュルテルが、ややスピードが落ちたクルハビーを見て一気にスピードを上げ逃げに入った。クルハビーは15秒ほどの差でこれを必死に追うが、コース後半の長い上りにかかったところでシュルテルが再びスパート。丘を上りきったところでクルハビーに45秒の差をつけ独走状態に入った。シュルテルはそのまま最終周回もスピードを緩めることなく独走で逃げ切り、悲願のオリンピック金メダルを手にした。(伴 達朗)