■大会レポート
プロローグ
開催日:8月23日(土)
コース:ティーニュ〜ティーニュ1800 3km(個人タイムトライアル)
出走人数:158名/27ヶ国
今年で61回目の開催を迎えた「ツール・ド・ラヴニール」。夏のフランスを舞台にした“U23版ツール・ド・フランス”として、世界のロードレースシーンに定着しており、これまで多くのチャンピオンたちがこの大会を足がかりに、グランツールで活躍するトップ選手へと大きく飛躍してきた。
近年はプロ入りする選手の低年齢化が進み、すでに世界のトップレースで活躍する選手も多く出場している。その影響でレースの難易度は年々上がり、プロ顔負けの厳しい戦いが繰り広げられているが、「ラヴニール(=未来)」という大会名が示すように、この大会には各国から“明日のチャンピオン”を目指す若手選手たちが集まり、U23世代にとって唯一無二の特別な大会となる。
日本チームは昨年の出場を見送ったため、今回は1年ぶりの参戦となった。現在、日本自転車競技界では若手強化戦略の推進により、U23だけでなくU19の段階から海外で経験を積む選手が増えており、こうした背景からも、近年で最も「脚の揃った」選手の招集が実現した。また、選手だけでなく、若手ながら欧州での経験が豊富なスタッフ陣も加わり、次世代の日本自転車競技界を担うチームとして、アルプス越えの山岳ステージを含む7日間の過酷なレースに挑む。
本大会は、19歳から22歳までが出場できるU23限定のステージレース。出場経験があるのは、U23最終年となる橋川丈と、3年目の鎌田晃輝の2名。両者は2023年の初出場時の悔しさを糧に、大きく飛躍を遂げ、チームの中核を担う存在としてこの大会に帰ってきた。
残る4名は今回が初出場。夏季休暇などを活用してフランスを拠点に活動してきた渡辺一気と林原聖真、そしてU23初年度ながら、U19時代から欧州レースで経験を積んできた岩村元嗣と望月蓮。いずれもフレッシュながら確かな自信と実力を備えており、これまでの日本チームが成し得ていない“何か”を期待させる布陣となった。
チームは大会数日前から、プロローグが行われるフレンチアルプスのスキーリゾート・ティーニュ(標高2,100m)に滞在。高地順応を含めた調整を行ってきたが、6選手はそれ以前からヨーロッパ各地で準備を進めてきた。そして大会初日となる8月23日、全長約3kmで標高差およそ250mを一気に駆け上がる個人タイムトライアルに挑んだ。
チーム内でトップタイムをマークしたのは、U23タイムトライアル日本チャンピオンの橋川丈。続いて渡辺一気、鎌田晃輝、望月蓮が、ほぼ同タイムでフィニッシュした。しかし、トップの橋川でさえ158選手中100位という結果だった。
レースが行われたのは標高1800mの高地。しかも、日本人選手が苦手とされる「パワーで押し切るタイプ」の短距離登坂タイムトライアルという、特殊な条件下での戦い。それでも選手たちは、走り終えて、それぞれに悪くない手応えを感じていた。だからこそ、その順位は、言葉を失うような厳しい結果となった。
「昨年ラヴニールに出場しなかったため、日本人選手の“世界における現在地”が見えにくい。初日のTTを走れば、それがわかるだろう」と語っていたのは中根英登コーチ。清水裕輔監督とともに、選手たちが想定どおりのパフォーマンスを発揮し、目標に近いタイムでゴールできたことは確認できた。しかしそれでも、プロローグの結果は監督、コーチにとっても衝撃的だった。
■中根コーチ コメント
「体格やパワー、レースの数やレベルの差だけでなく、近年ではUCIワールドチームが育成チームを持つのが当たり前になってきている。この大会に出場している多くの選手が、そうした育成チームに所属しており、ワールドチームと同じノウハウで若手の育成が行われていることが大きなアドバンテージになり、今日のようなレースでは、国内を拠点とする選手たちとの間に大きな差が出るのではないかと思う」
とはいえ、明日からは通常のロードレースステージが始まる。清水監督は「今日の結果に落胆する必要はない」と語り、まずは各選手が現時点で持てる力をしっかりと発揮できたことを前向きに捉え、明日以降のステージに期待を寄せる。中根コーチも「今回の日本チームには力のある選手が揃っており、今後も彼らが本領を発揮できるよう、引き続きサポートしていきたい」と意気込みを語った。
選手たちも前を向く。橋川は「今日のステージには反省点もありますが、次に向けて調子が上がってきている感覚があります。チームみんなで力を合わせて頑張りたいと思います」と話す。
7日間にわたるレースは、まだ始まったばかり。日本チームの挑戦はこれからだ。
■リザルト:
1位 SEIXAS Paul(フランス)7’19″14
2位 FINN Lorenzo Mark(イタリア) 7’19″84
3位 SCHRETTL Marco(オーストリア)7’26″78
100位 橋川丈 8’40″92
101位 渡辺一気 8’41″08
102位 鎌田晃輝 8’42″03
105位 望月蓮 8’45″24
118位 林原聖真 8’52″07
127位 岩村元嗣 9’04″00
■派遣情報大会名:2025 Tour de l’Avenir
カテゴリー:UCI U23ネーションズカップ
開催期間:2025年8月23日(土)~29日(金)
開催地:フランス・オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方(Auvergne-Rhône-Alpes)
遠征特別協賛:Team NIPPO(株式会社NIPPO)、弱虫ペダル
8月23日(土)プロローグ ティーニュ〜ティーニュ1800 3km(ITT)
8月24日(日)第1ステージ アオスト〜サン=ガルミエ 188.6km
8月25日(月)第2ステージ サン=シンフォリアン=シュル=コワーズ〜ヴィトリー=アン=シャロレ 136.7km
8月26日(火)第3ステージ エタン=シュル=アルー〜シャティオン=シュル=シャラロンヌ 158.6km
8月27日(水)第4ステージ モンタニャ〜ヴァル・シュラン 110.2km
8月28日(木)第5ステージ サン=ジェルヴェ・モンブラン〜ティーニュ2100 121km
8月29日(金)第6Aステージ ラ・ロジエール〜ラ・ロジエール 41.6km
第6Bステージ モンヴァルザン〜ラ・ロジエール 10.3km(ITT)
総走行距離 770km
■ 派遣選手
・鎌田 晃輝(大阪・JCL TEAM UKYO/日本大学)※U23ロードレース アジアチャンピオン
・渡辺 一気(北海道・京都産業大学)
・林原 聖真(鳥取・明治大学/群馬グリフィン)
・橋川 丈(福島・愛三工業レーシング)※U23タイムトライアル 日本チャンピオン
・岩村 元嗣(大阪・早稲田大学)
・望月 蓮(山梨・Team Buffaz Gestion de Patrimoine)
■ 派遣スタッフ
・清水 裕輔 監督
・中根 英登 コーチ
・市川 貴大 メカニック
・酒井 駿 メカニック
・西幹 祐太 マッサー
・坂本 拓也 マッサー
写真:Sonoko Tanaka